天気の良い土曜日の昼下がり
コンビニでビールを買い込んで家に突然押しかけてきた私の中学生時代の同級生
「太」ふとし
短めの角刈り?のような頭に、鼻の下には髭を生やして、顎には不揃いな無精髭、無愛想な一重の目つき、日に焼けた浅黒い肌、筋肉質でがっしりした太い体に酒の飲みすぎでだらしなく突き出た中年腹
そのヤッさんのような厳つい親父はトラックの運ちゃんで、日本全国各地を大型トラックで豪快に走り回っている
太はシャワーを浴びた後、再びビールをグビグビ飲みだす、私がつまみに作っておいた、お好み焼き、お握り、フライドポテトをガツガツ頬張る
そしてゴロンと横になり、「ブッ!」と臭い屁をかまして一息ついた
太は寝っ転がった姿勢のままでビールをゆっくり飲みながら今の心境を話しだした
太
「わしなぁ、嫁と離婚しよかと思うとるんよ」
私
「えぇーっ!!なんで!?」
太
「こないだ帰った時にな、嫁と大喧嘩したんよ、わしもついカッ!と頭にきてな、嫁の頬をひっぱたいてしまったんや」
私
「ありゃまぁ~…やっちゃったのかぁ…
でも太の嫁さん気ぃ強いけん相当怒ったやろ~…」
太
ほうよ!「お前みたいな酒とパチンコと女遊びに溺れて腐っとる男なんかいらんわい!別れてやるから慰謝料と子供の養育費渡して出ていけ!」
とかぬかしやがったけん、わしもな
「やかましい!糞ブス!主のわしに偉そうにぬかすな!喜んで離婚したるから役所にいって離婚届とってこいやアホ!」
て言ってやったのよ
私
「おいおい…キッつい夫婦やのぅ…(苦笑)
でも子供もおるんやけん、まぁ落ち着いて…
…えっと、姉ちゃんが今年中学二年やったっけ、で、下の弟が小学四年生かな?」
太
「おうよ、結菜(ゆいな)は中二、琢磨(たくま)は小四や」
私
「やっぱり我が子は可愛いだろ?離婚なんて早まりなさんなよ、独身のわしが言うのもなんやけど…」
太
「可愛いないわい、結菜なんか、わしが近づいただけで、臭い!寄らんといて!とか言うんぞ!
琢磨はゲームばっかして、ほら、あれなんだっけ、ポケモンじゃなくて~…なんちゃらキング?だったかな…~…?
私
「妖怪ウォッチだろう?」
「社会現象的に流行ってるらしい、今の小学生で知らない子は居ないよ」
太
「そうそうそうそう!それ!妖怪ウォッチ!妖怪ウォッチ!
なんかシールやらガードやらメダルやらいっぱい集めやがってよぉ、男の子なら外で遊ぶもんだろ!?」
私
「まぁ、時代が違うからなぁ~…、今時外で缶蹴りやケイドロの遊びをする子供なんて居ないだろ?」
太
「琢磨も小四やけんな、そろそろ相撲やらそうかなと思うとるんやけど、今の小学校は相撲部がないし、近場に相撲が習える道場もなくてなぁ…、で、近所に空手道場があるけん習わそうと思ったら、
琢磨は「やりたくない!」ってごねるし、嫁は「空手なんて駄目よ!将来に役立たないでしょ!?琢磨は塾に通わすんだから勝手に決めつけないでくれない!?」
太
「その嫁の一言にカッ!となってな、
「武道が将来の役に立たんやと!馬鹿にするなっ!男の子は若いうちから体を鍛えておかんと将来弱々しい男になる!
それに武道は礼儀作法も教わるから社会に出るためにも必要なんや!」
私
「それで嫁さんはなんて?」
太
「はぁっ!?、相撲で礼儀作法を学んだ
あんたが大人になって、パチンコ、酒、女遊び三昧の駄目親父の癖に偉そうに言える立場か!?
腕っぷしがあるのは乱暴なだけで迷惑!
空手なんて絶対させません!」
私
「あはは、そう言うと思った、確かに嫁さんの言い分はわかる」
太
「笑い事じゃないぞ、それ聞いたわしもつい頭にきてしまってな、「やかましい!女の癖に偉そうぬかすな!」って、嫁をひっぱたいてしまったのよ
そしたら嫁が「女に暴力振るうなんて最低の男がやることよ!?
もう許さない!お前みたいな酒とパチンコと女遊びに溺れて腐っとる男なんかいらんわい!別れてやるから慰謝料と養育費渡して出ていけ!
て、怒り狂いやがったんよ」
私
「あぁ~…、なるほどねぇ~…、でも嫁さんの言うことも一理ある、太も悪いぞ」
太
「なんでわしが悪いんぞ!」
私
そりゃあ「酒、タバコ、パチンコ(ギャンブル)、女遊び、いわゆる「飲む吸う打つ買う」これら全てを娯楽にしている男にはろくな奴はおらんのよ」
太
「他に何をすればえぇんや?」
私
「そう、それ!
他に何をすればいい、
太は他に何をすれば良いのか、それは自分自身が決める事」
以前ある建築作業員の男性と話した時に言われた事
作業員「兄さんタバコは?」
私「吸いません」
作業員「酒は飲めるん?」
私「お酒は飲めません」
作業員「パチンコ打たんの?」
私「全く打つ気はないです」
作業員「風俗は?」
私「わざわざ風俗行って、お金を払ってまで性欲を晴らしたいとは思いません」
作業員「兄さんなぁ、何が楽しみで生きとるん?」
…と言われた事があった
その時思ったのは
「あぁ、この男性はタバコ、酒、パチンコ、女遊びしか生き甲斐の楽しみがないんだなぁ、と思ったんよ、要するに生活の視野が狭いわけ、他にも楽しい事は山ほど転がってるというのに…」
太
「他の楽しみってどんなことや…?」
私
「それは自分で見つけなされ」
太
「他に趣味なんかあるかいや」
私
「でも太はトラックで日本全国色んな場所に行ってるでしょ、大都会の美しい夜景、何キロも続く綺麗な田園風景、雄大に広がる太平洋の海岸線に有名な観光地が見えたり、それが楽しみの一つでもあるんじゃないかな?」
太
「そうかのう?」
私
「でもトラックのドライバーが好きなんでしょ?」
太
「おうよ、長距離ドライバーはわしの生き甲斐、それ以外の仕事に就くつもりは全くないわい」
私
「まぁ、太は昔から酒が好きやったからしょうがないとして、せめてパチンコと女遊びはやめようや、タバコはどう?やめれそうにない?」
太
「お前なぁ、長距離ドライバーはほとんどトラックで生活するから、その…なんだ…、やっぱり溜まってくるし、人肌恋しくなるのよ、たまにはいい女を抱きたいわ」
私
「どこの誰と女遊びしよるん?」
太
「出会い系、地方に向かう前に掲示板で呼び掛けてる、気に入った奴を目当てにして食っちゃるのよ」
明日の土佐清水市で24歳の若い姉ちゃんと会う約束しとるんよ、あ~!早よヤりたい!」
私
「お前なぁ~…、嫁さんと子供おるんやけんそろそろ落ち着こうや」
太
「世の中イケメンイクメンが持て囃される時代やけど、掲示板見たらわしみたいな親父好みの女が結構おるんだわな!」
画像送ったら、「早く会いたい~!おじさんのちん○舐め舐めしてあげる♪私のこと、優しく可愛いがってね、でもちょっぴり野獣みたいに強引にされても興奮しちゃう~」とか、欲求不満の女がわんさかおるんよ!たまに成り済ましのオバハンが混じってる事もあるけどな!」
私
「おいおい…その歳と顔で出会い系とかよく犯罪者と疑わんのやなぁ…、その事は奥さん知っとるん?」
太
「とうの前から知っとるわい」
私
「よく奥さん今まで許してくれてたなぁ~!」
太
「まぁ嫁とはもう一切やってないしな、家に帰省するのも月2回だけやし、旦那は給料さえ払ってくれてれば良い感じじゃないんかね
でも寂しいもんよ、家に帰ったって、子供らはわしに近寄りもせんし、嫁には煙たがられてるし、嫁と子供、わし一人と完全に孤立しとるからなぁ…
…時々思うのよ、わしは何の為に働いているのか、誰のの為に生きているのか、考えていて虚しくなる時があるんよ」
私
「そうやなぁ…わしは独身やから、太の本当の辛さはわかってあげることは出来んなぁ…」
太
「ほうやけん、こうなったらいっそのこと離婚して、何気兼ねなく生活していくのも良いかもしれんなぁ~…と思ってお前ん家に寄ったわけよ!」
私
「う~ん…
でもやっぱり離婚の結論はまだ出すなよ、後悔しても後戻り出来ないからなぁ、
古い仲のお前にはバツイチになってほしくないしな」
太
「虎之助…お前が羨ましい、わしは独り身になりたい、自由になりたい…」
私
「わしは嫁さんと子供がいるお前の方が羨ましいわ…」
それから私と太はその離婚についての議論を話し合った、そして他の相撲仲間が今誰が何をしてどうなっているかの長話を、時間が過ぎてゆくのも忘れて話をしていた、そしていつの間にか太陽はすっかり西に沈み始める…
太の酔いがまわってきた頃だった
突然太が泣きだしたのである
太
「うぅ~…、グスッ…ちくしょう~…
わしの気持ちなんて…
誰もわかってくれねぇよぉ~…
うぅ~…うぅ…ぅぅ…ぇぇぇ~…」
太は酔うと泣くか怒るかのどちらかなのは以前から知っている
そしていつも威勢を張り、見掛けは厳つい親父だが、実は小心者で寂しがり屋なのも私は知っていた
私は太に枕を頭に敷いてやり、毛布を掛けながら「よう頑張っとるよなぁ、太は偉いよ…わしはちゃんと見とるからな…」
と、たわしみたいな頭を軽く撫でて慰める
すると太は私の胸元にしがみつき、嗚咽をあげて泣き出した
太
「う…うぅ…う、う、…………
うわあぁあぁあ~ぁ~あ!!!!ん!
うんがぅぅうあんあんあがあんうぐわぁ~~うぉうんあうんあんわんあんあん!」
まるで子供のように大声あげて泣き出した太
ここまで勢いよく泣く太に私は驚いた、こんな激しく泣かれたのは初めてだった
私は太のたわしみたいな頭を撫で撫でしながら「よ~しよ~し、辛いんだなあ、本当は寂しいんだよなぁ、我慢しないで思いっきり泣いて吐き出せよ」
と子供をあやすようになだめてやった
太
「とうちゃぁ~ん!かあちゃぁ~ん!
会いたいよぉ~!!会いたいぃ~!!
うぉうんあうんあんわんあんあん!!
とうちゃぁ~ん!かあちゃぁ~ん!」
太が泣きながらとうちゃん、かあちゃんと叫んでいる、そうだった…太の両親はもういない…
父親は太が中学三年生の時に女を作って蒸発、母親は22才の時に病気で亡くなった
弟がいるものの不仲で音信不通
太は父親が居なくなってから高校生時代非行に走り荒れ果てた時期があり、母親を散々困らせた
母親が病気で亡くなったのはお前のせいだと親戚や従兄弟、身内に散々責め立てられて完全に絶縁状態
太には頼れる身内が居ない
唯一の家族は嫁さんと子供
もし離婚すれば太は完全に一人
ずっとトラックで生活するだけの毎日
出会い系で女性と関係を持つのは寂しさを紛らわすため
そう思うと私も涙が途端に溢れだし
堪えきれず声を出して泣いてしまう
太いおっさん同士が抱き合って、大声をあげて泣く
異様な光景である…
…どれほど泣いただろうか…
日が暮れてすっかり部屋は暗くなっていた、涙もすっかり枯れ果てた二人
太はようやく泣き止んで、すぅ…すぅ…と静かに寝息をたてていた
私は太を体から放し、枕を頭に敷いて毛布を掛けて横にする
時刻は夜の8時、私は部屋に入り、クロッキー帳を開いて筆をとる
旧友、いや、親友「太」の為に
2枚のイラストを描いた
作業は深夜まで掛かった…
翌朝の新聞配達から帰ってくると、太はすでに起きていた、ポロシャツと作業ズボンに着替えて洗面所で顔を洗っていた
太
「おう!おはよう!配達ご苦労さん!」
私
「おはよう、ゆうべ結構飲んでたけど大丈夫か?もし疲れてるんだったら、もう一日くらいゆっくりしていきなや」
太
「そうはいくかい!長距離は時間制限に厳しいからな、24歳の姉ちゃんにも会わないかんし♪」
私
「結局会うんかよ…
離婚の件、どうするん?」
太
「さぁのぅ、わしは何とも言えんよ」
私
「まぁ、色々あるけど離婚はやめようや
、な?」
太
「がっはっは!人の心配しとらんで、お前もええ加減嫁さん貰え!
今から探すとなればこの歳じゃあ厳しいぞ!」
私
「わしはもう結婚はせんよ、一人が気楽てええ、死ぬる時も一人でええわい」
太
「今度2、3人連れてきたるから好きなの選べ!」
私
「いらんいらん!」
太
「冗談冗談!お前に結婚話はタブーだったな、すまんすまん!」
私
「関係ないよ、もし自分が普通の男でも同じ道を選ぶ、だからいっそこのままで良かったと思っとるんよ」
太
「昨日はすまんかったなぁ…
すっかり取り乱してしまってよ」
私
「あれ?ちゃんと覚えてるんかい!」
太
「ありがとうな、お前だから本音で吐き出せた、ずっと腹の中に溜め込んどったんよ」
私
「たまには泣かんとな、やっとれんよ」
ガチャ…←トイレを開ける音
うわっ!くっさー!お前ウンコしたなー!
太はタバコ吸いよるけん、なんかウンコがタバコ混じりの匂いがして臭すぎるわい!
えーかげんタバコやめんかい!」
太
「がっはっは!えー匂いするやろが!!
ま、糞は誰でも臭いもんよ♪」
おっと!そろそろ早よ用意して行かんとな!」
私
「朝飯食べた?」
太
「おぅ!ジャーの飯と、金ちゃんラーメンと卵食わしてもらったぞ!」
私
「そっか、ならいいわい、あ!ちょっと待った!見せたい物があるんよ!待って待って!」
太
「なんぞ!何を見せてくれるんぞ!綺麗な姉ちゃんの写真か?
それともお前のちん○か?
んなもん見たないぞ、がっはっは!」
私
「ほら!これ!ゆうべ太が寝てから描いたんよ」
太
「おぉぉおーー!!これお前が描いたんか!?
凄いなぁー…!
南無南無やめて漫画家になれや!」
私
「こんな絵で漫画家なんかなれるかいな
、でもそっくりやろ?ビール飲みながら横になっている姿、しーっかり頭にインプットしとったけんな」
太
「なんで屁ぇこきよるんぞ!(笑)」
私
「ブーブーこきまくりやったろうが!
、臭くてかなわんかったわい!(笑)」
太
「でもこれええわい!上手い上手い!同僚、いや、所長にも見せたいし、他の業者の奴らにも見せるけん、ちょっと携帯で撮らせてくれな!」
私
「撮れ撮れ!皆にしっかり見せて、わしの事宣伝しといてくれ!」
太
「ピシャリっと♪保存してっと♪」
私
「撮ったか?じゃあもう一枚の方も見てくれ、ほれ♪」
太
「これは…
あ~あ~あ~!わかった!
地区大会の時のな!
あれは中学一年の頃やったな!
懐かしいなぁ~…
本当は横に照彦がおるんよな!」
私
「二人も描く時間がないし、太の勇姿を重視してピックアップしたんよ」
太
「ちょいとマッチョに描いてあるな、わしはこんなに整った体じゃなかったし」
私
「顔もちょいと可愛らしくしておいたわい、本当はもっと憎たらしい顔しとったんやけどな、思い出は美しくしといた方がよかろう?」
太
「なんかしんみりしてくるなぁ…
この頃は純粋だったよなぁ…」
私
「嘘つけ!嫌な奴やったわい!」
太
「これは待ち受け画面にしたい、これも撮らせてくれな!
セットして~…はい!ピシャリっと♪
…待ち受け画面に選択~…っと…
よっしゃ!出来た!これも所長らに見せてやろ!」
私
「はっはっは!喜んでくれて良かったわい!寂しくなったらこれを見て頑張れ!」
太
「ありがとう…本当に嬉しい…一生懸命描いてくれたのが凄いわかる…
来て良かった…ありがとうな虎之助」
私
「スケッチ画で質素やけど、絵を描く時は魂を込めるぐらいの思いで描いている
、太に少しでも元気になってもらいたいから描いたんよ、もうちょっと時間があればペン入れして色を塗りたいけど、何日も掛かってしまうんでな、それで勘弁してくれ」
太
「おう!元気が出たわい!
それじゃそろそろ時間もきたし行ってくるな!」
私
「駐車場まで見送ってやるよ」
私と太はのアパートのすぐ近くにある温泉施設とホテルの駐車場に停めてある太のトラックへと向かった
○○高速運輪と書かれたでっかい大型トラックが堂々たる姿を見せる
太はタバコをくわえてジッポライターで火をつける
眉間にシワをよせ、渋い表情でトラックに乗り込む姿は、ゆうべ泣いていた姿とはまるで別人であり
働く男の勇姿が眩しく光っている
そして太はトラックのエンジンをかけ、窓を開けてハンドルを握った
トラックエンジン音が大きいので、私は大きく太に声を掛けた
私
「太!最後に聞いてくれ!」
太
「おう!なんぞや!」
私
「安全運転でな!
体調に気をつけろよ、眠たくなったら無理せず広場に停めて仮眠しろよ!
え~…と、あとはトラックの運ちゃん同士のクラクション合図やめてぇな!
びっくりするから!
あと、
飲酒運転は絶対するなよ!
飯はしっかり食えよ!
パチンコと女遊びは止めとけよ!
酒とタバコは控えめにな!」
太
「はっはっは!まるで母親みたいだな!
…でもな、お前のそういう平凡な所、わし好きやわ!(笑)」
私
「誤解するから好き言うな!(笑)」
太
「おーい、顔赤なっとるぞー」
私
「誰がお前なんかに惚れるか!」
太
「じゃあな!虎之助!世話んなったな!ほんなら行ってくるわ!
私
「太!元気でな!また来いよ!」
太
「おう!また来るわい!」
私
「今度は地方のお土産物ぐらい持ってこいよー!」
太
「了解!(^-^ゞ!」
私
「じゃあまたな!」
太
「おう!またな!」
太は指でgoodの合図をした後、前を見てトラックの運転に集中する
もうこちらを振り向く事はなかった
私は太のトラックが国道に出るまでずっと見送っていた
トラックのウインカーが左を光らせ、しばらく止まっていた後に、ゆっくりと左折をして国道へ入る
その時、「パァン!」と太のトラックからクラクションが鳴った
私に対しての最後の合図なのか、それとも国道を走っている車が止まって道を譲ってくれたお礼の合図なのか、それがどちらによるものなのかわからなかった
太のトラックは左折して見えなくなり、豪快なエンジン音だけが響き渡った
私は駐車場に立ち止まりながら
太の私にはない男気が眩しく、そして羨ましくも感じるのだった
若くして両親を無くし、家庭を守りながらも孤独に戦うその姿は、父親そのものの男らしさだった
ゆうべあれだけ激しく泣いた太
きっと色んな思いが溢れだしたのだろう
私も共に涙して気持ちが楽になった
一緒に泣ける友がいてくれることに
幸せを想う
中学生時代のあの頃
わんぱく盛りの太は廻しを絞めて相撲の稽古に明け暮れていた…
卑怯で嫌な奴だったけど
大人になって親友になるとは夢にも思わなかった私…
あの日の少年はどんな未来を夢見てたんだろう…
そんな事をかんがえながら描いた中学生時代の太です
(おまけ)
すっかり脱力感ダラダラでアパートに帰った私は、太の居なくなった静かな広間に寂しさを感じる
まるで台風が通り過ぎた後のような静けさだ
さて、シャワーでも浴びよかなと思い洗面所に行くと、太に貸していた私のランニングシャツと、縦縞パンツが洗濯かごに脱ぎ捨てられていた
私はそのランニングシャツと、縦縞パンツを手にとり
恐る恐る匂いを嗅いでみる
まずはランニングシャツから…
クンクン…
ランニングはそんなに臭くない…
パンツは…?
クン…
「おえーっ!くっさぁぁぁああー!」
「これはたまらん!親父臭炸裂!」
一気に感情が冷めた瞬間だった
私はランニングシャツと、縦縞パンツを洗濯機に入れて、アタックにレノアを入れて自動ボタンを「ピッ♪」と押した
こんなわんぱく少年が
数十年後にはこんな親父になるわけです
いやぁ~…時代の流れって本当に
残酷です、最後まで読んで頂きありがとうございました