どすこい!西郷虎之助の七転八倒!

「西郷虎之助の人生は七転び八起き」の筆者・西郷虎之助でございます、この度Yahoo!ブログからようやく移行致しました、初めての方も、これまでお馴染みだった方も含め、新境地でお楽しみ頂けたら幸いです、どうぞこれからも意地っぱりで泣きベソ坊主な「虎之助」をどうぞ宜しくお願い致します。

3.11~風のゆくえ~「夕暮れのキャッチボール」

 

まだ誰もいない...

暗い朝の夜明け前...

 

小さく輝いているお星さま...

ぼんやりと光るお月さま...

まだ夜明け前の広い広い砂浜を静かに照らしてくれています...

 

波の音が優しくきこえ...

ほんのりと海のにおい...

だけどここからはもう海辺は見えない...

月明かりの影になって見える黒い防波堤...

きれいになったこの砂浜を守るために造られたんだ...

 

そして...

風もない中...

見えてきた...

 

一本の長い松の木...

 

命の大切さ

命の力強さを

伝えながら...

 

奇跡の一本松は

今日もここへ訪れてくるみんなを

優しく微笑みかけ...

慰めてくれます...

 

 

「3.11~風のゆくえ~」

第1話

「夕暮れのキャッチボール」

アナログ放送

文・ヘタなイラスト

西郷虎之助

 

語り

森ノ風九朗

(ナイトショップふくろう・店主)

 

 

2023年 3月11日

 

まだ夜明け前の暗い中

陸前高田市にある高田松原

「奇跡の一本松」へと歩いて向かっている一人の男がおりましたとさ...

 

髪を短くスポーツ刈りのような頭に...

大柄な体格をした風浪で...

まだ21歳という若さとは裏腹に... 

 

後ろ姿は恰幅がある中年男性のように見えるのでした...

 

男の名は

「大森一郎

どうやら大学生のようです...

 

さて...

一郎君は...

まだ寒い3月の夜明け前...

「奇跡の一本松」へ...

どんな想いを抱いてやってきたのでしょうか...

 

 

では...

12年前を...

ちょっぴり見てみましょう...

 

 

12年前 2011年

 

日暮れの日曜日...

あかね色に染まってゆく公園のグラウンドで...

父親と男の子が仲良くキャッチボールをする姿が見えてきました...

 

「いくよー!おとうさーん!」

 

「よっしゃ!こい!」

 

「えいっ!」

 

「スパーーーンッ!」

 

「いいねぇー!ナイスボール!」

 

「とうさん!早くー!」

 

「いくぞー!こいつはどうかな?」

「そりゃっ!!」

 

「うわっ!」「スパーーーンッ!」

 

「おっ!一郎よく取った!えらいぞ!」

 

「ヘッヘーン!すごいでしょ~!」

 

 

 

日が暮れれていく中...

公園のグラウンドにキャッチボールをする親子の楽しそうにはしゃぐ笑い声と...

グローブでボールをキャッチした音がスパンッ!と響き、2人の影も...

だんだんと長く伸びてきます...

 

太陽が公園の周囲に建っている住宅街の家に隠れ...

グラウンドが暗くなり...

父親が男の子に言いました...

 

「一郎!もうそろそろ暗くなるから帰るぞー!」

 

「えーー!あと10球だけー!」

 

「ダメダメ、今日はこれでお終いお終い!また来週な!」

 

「ヤダッ!あと10球だけ!!」

 

そう言って男の子は父親にボールを投げます...

 

「わっとぉっ!」

「スパンッ!!」

 

「とうさーん!早くボール!」

 

「まったく...しょぅ~がない奴だなぁ~・・・あと10球だけだぞぉ~?」

 

「うんっ!!」

 

男の子は夕暮れに染まったあかね色の顔でニッコリ笑顔を見せながらグローブを構えました...

 

「よぉーーーし!強くなげるからなぁーー!!

いくぞぉーーーー!!!」

 

「さぁこいっ!!」

 

夕暮れの公園で親子が仲良くキャッチボール...

よくある当たり前の光景...

 

これが当たり前なんだ...

ずっと...

ずっと続くんだ...

きっと男の子は...

父親の背中を見てそう思ったことだろう...

 

約束の残り10球のキャッチボールを終えた親子は...

ようやく公園を後にして帰路につきました...

 

父親が男の子の頭に手を添え...

優しく撫でている...

きっと今日の成長を喜んでいるだろう...

息子もたくましくなったなぁ...と...

 

 

父親の名は

「大森武志(たけし)」

独立軽運送会社を営む36歳

 

学生時代は野球部に所属していた根っからの野球少年でした...

しかし...

万年補欠で一度もレギュラー

にはなれませんでした...

 

ですが、息子の一郎は...

そんな父親をかっこ悪いなんて思いません...

 

大柄な体格で力持ち...

頭は少してっぺんが薄くなってきたけど短く刈り上げて男らしくてかっこいい、堂々として隠したりなんてしない

子煩悩であり、休みの日にはキャッチボールをしてくれる...

怒るとすごくこわいけど...

 

一郎は...

そんなお父さんが大好きなのでした...

 

 

 

外はすっかり真っ暗になり

家々からは明かりが灯ります

帰り道からはカレーや焼き魚の美味しそうな香りが漂ってきました

一郎はもうお腹ペコペコです...

今晩の夕食は何かなぁ~?

 

一郎

「ねぇお父さん!

今日の夕食何だと思う~?」 

 

武志

「そうだなぁ~~・・・

さっき通った家みたいにカレーだったら良いよなあ?」

 

一郎

「うん!カレー食べたい!」

 

武志

バーモントカレーの中辛が美味しいよな~!一郎!」

一郎

「うん!バーモントカレーの緑の箱のやつが一番美味しい!

こくまろとか熟カレーよりやっぱりバーモントカレーだよね!」

 

武志

「ハッハッハッハ!一郎もバーモントカレーが好きか!

やっぱ一郎は父さんの息子だなぁ!」

 

一郎

「うん!僕、お父さん大好きだもーん!」

 

武志

「なら母さんと父さん、どっちが好き?」

 

一郎

「うーーん・・・」

武志

「ん~~?」

一郎

「お父さんっ!!」

武志

「こいつぅ!ええ子やなぁ!

ハッハッハッハ!!」

 

武志は嬉しくて...

つい一郎のグリグリ頭を強く撫でました...

 

一郎

「うわっ!お父さんいたいよ~」 

 

武志

「父さんも、母さんより一郎が好きだ!」

 

一郎

「あぁ~~~!お母さんがヤキモキやくよ~~!」

 

武志

「ハッハッハッハ!

あいつがやくかよ~笑

一郎!この話は父さんと一郎だけの秘密だぞ~?」

 

一郎

「うん!僕とお父さんだけの秘密だね!」

 

武志

「じゃあ...父さんと一郎

男と男の約束だ!」 

 

一郎

「うん!男と男の約束!」

 

「ゆびきりげんまんはりせんぼん

のーます!ゆびきった!」

 

「アハハハ!」

「ハッハッハッハ!!」

 

そんな親子2人

仲良くじゃれ合いながら話してるいると...

お家が見えてきました...

2人の足取りも自然と軽くなります...

 

 

(ガラガラガラ~~♪)

武志

「ただいま~~!」

一郎

「お母さーん!ただいまー!」

 

武志と一郎は家の玄関を開け

2人の「ただいま」の声が聞こえると...

夕食の用意をしていた母親がエプロン姿で迎えに来ました..

 

「あ!たけし、お帰り、お風呂沸いてるから、一郎と一緒に入ってきて!」

 

母親の名は

「大森和恵(かずえ)」30歳

イオンでレジのパート勤務・気の強い性格で武志は頭が上がらない

 

武志

「えー、先にビールで一杯したいなぁー・・・」

 

和恵

「2人とも汗かいてるでしょ!お風呂あがる頃には夕食出来るからさ、早く入ってよ!」

 

武志 

「じゃあ和恵、ビール用意しといてよ、アサヒクラシックラガーで、つまみは枝豆がいいな...」

 

和恵

「たけし!ビールはお医者さんから控えるように言われてるでしょ!?ビールはダメよ!ウーロン茶!」 

 

武志

「ちょっとくらい良いだろぅ・・

一郎とキャッチボールをして疲れてんのにさぁ・・・ブツブツ」

 

和恵

「何言ってんのよぉ!血圧に肺機能と腎機能の数値とんでもなかったでしょ!お酒はダメなんだって!早く一郎お風呂に入れてよ!あたし夕食の準備で忙しくて手が離せないんだから!」

 

武志

「一杯だけっ!!良いだろ!!

たのむわっ!」

 

和恵

「しつこいわね!!ダメと言ったらダメよ!」

 

武志

「和恵っ!!」

 

一郎

「お父さ~ん・・・

お風呂入ろうよ~・・・

僕もうお腹ペコペコ・・・」

 

武志と和恵が言い合ってると...

台所からお婆ちゃんの声が...

 

「和恵さぁ~~~ん

里芋煮あがってたから弱火にしましたよ~~!」

 

お婆ちゃんの名は

「大森幸子(武志の母)」還暦60歳

趣味は家庭菜園・五木ひろしのファン

 

和恵

「ああっ!お義母さんごめんなさ~い!」

 

一郎

「おばあちゃんただいまー!」

 

幸子

「まぁ~♪

一郎ちゃん...おかえりぃ~♪

おばあちゃんの作ったおはぎがありますよ~♪早くお風呂に入ってらっしゃ~い♪」

 

一郎

「やったぁ!わぁ~~~い!」

 

一郎は靴をポーンと脱いでお風呂へと向かって行きました...

 

和恵

「さ!早く!タケシもお風呂!」

(パンッ!パンッ!)

 

和恵は武志の大きなお尻を叩いてお風呂に入るよう促します...

 

武志

「ちぇっ・・・

ビール楽しみにしてたのに・・・」

 

和恵

「ほら、ジャージ汗臭いわよ洗濯するから早く!」

 

武志

「わかってるよ、うるさいなぁ...」

 

ようやく武志も渋々とお風呂へと向かいました...

 

和恵

「あ、お義母さん、お漬けもの」

 

幸子

「ええ、ちゃんと漬けておきましたよ」

 

和恵

「ありがとう~!

お義母さんの漬けたお漬けもの美味しいから好きよ~♪」

 

幸子

「わたしのお漬けもののお野菜は無農薬だからねぇ~

美味しいわよ~」

 

和恵

「義母さん、里芋の味付けありがとう、やっぱり煮物はお義母さんの味には敵わないわぁ~♪」

 

幸子

「ホホホ...♪

煮物の味付けはコツですよ...」

 

和恵

「さ、夕食の準備しなくっちゃ!」

幸子

「和恵さん、わたしも手伝いますよ」

 

(パタパタパタパタ・・・♪)

 

大森家は

父・武志

母・和恵

祖母・幸子

息子・一郎

の4人家族

 

和恵と幸子の嫁姑関係も良好で大変仲が良く、よく2人で夕食の買い出しにも行く...

 

不器用ながらも一家の大黒柱である武志、働き者であり、毎日朝早くから軽トラに乗って配達に出かけるのでした...

 

9歳で小学3年生の一郎は...

父親ゆずりの健気で活発な男の子

武志の影響で野球が好きであり

4年生になったら野球部へ入ろうと決めていました...

 

 

よくあるありふれた暖かい家庭...

木造住宅の古い年期の入った家だけど...

僕は幸せいっぱいだったんだ...

 

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