「これより・・・
百貫村・村長を代表して・・・
金剛・熊吾郎より・・・
新年の御挨拶として・・・
先ずは・・・
三本締めから始めるでござる・・・・
では・・・
村長・・・前へ・・・」
熊吾郎
「うむっ・・・」
「村の者よ・・・
新年・明けまして・・・・」
八兵衛
「おめでとぉぉぉおおおーーーぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーぉぉぉぉおおおおーーーーぉぉぉぉおおおおっ！！」
権左衛門
「村の者一同！！！
お手ぇ～～をぉ～～～～ぉぉぉぉおおおおおおおお～～・・・・
拝借ぅぅ～～～ぅぅうう～～・・・！」
八兵衛
「三本締めっっ！！
よぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ！！！」
熊吾郎
「むんっ！！！」
「パパパンッ！パパパンッ！パパパンッ！パンッ！」
八兵衛
「いよっ！！」
「パパパンッ！パパパンッ！パパパンッ！パンッ！」
八兵衛
「もぉ～いっちょっ！！」
「パパパンッ！パパパンッ！パパパンッ！パンッ！」
熊吾郎
「よいしょっ！！」
八兵衛
「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ！！！」
「パンッ！！！」
権左衛門
「２０１９年・亥年
百貫村・愛宕神社
新春・横綱の土俵入りを前に・・・
村長・「金剛・熊吾郎」より・・・
初めに・・・
新年の御挨拶を・・・
申し上げるでござる・・・」
「うむっ・・・！」
八兵衛
「村の民よ・・・
静寂に・・・静寂にすると・・・！」
熊吾郎
「百貫村の村長・代表として・・・
金剛・熊吾郎より、新春の御挨拶を述べる・・・・
村の民よ・・・
新年・・・
明けましておめでとう・・・！
こうやって・・・
村の者一同と共に・・・
無事・・・
新年を迎えられた事・・・
そして・・・
百貫村の村人全体が一丸となり、皆が協力しあって・・・・
この長い歴史と伝統を一緒に守って行けた事を・・・
誇らしく・・・・・・思う・・・
わしらはこの深山の離れから・・・
ほんの些細な理由で村八分にされ・・・
町人から厄介者として・・・
この村でひっそりと暮らすしか術が無くなってしまった・・・・
人から疎外される悲しみ・・・
差別され・・・
無神経に後ろ指を差されて笑われる苦しみが・・・
どれほど寂しくて辛いか・・・
村の皆なら・・・・
わかるよのう・・・・」
八兵衛
「う・・・・
うううぅぅ～～・・・・
グシッ！ブシッ！・・・」
権左衛門
「・・・・・・・・・グッ・・
シュンッ・・・・・・！」
熊吾郎
「この百貫村は・・・
社会から完全に切り離された村・・・
地図からも消された深山の集落部落地区じゃ・・・・
テレビもない・・・
電話もない・・・
洗濯機もない・・・・
電気も通らない・・・・
日本の文明開化が江戸時代から完全に止まってしまった貧村じゃ・・・
わしらは日本の社会が・・・
今どうなっているかもわからない・・・・
着るものは法衣と褌のみ・・・
食べるものは畑で作った野菜に米、それに農村の畦道に生える山菜・・・
生きているもので例えれば・・・
野生の猪やうさぎに渡り鴨・・・
川の魚にエビやサワガニは、わしらにとっては貴重な食料源・・・
それらを必死で捕まえて食べなければ・・・
わしらは生きては行けんのじゃ・・・
夜は真っ暗で何も見えず・・・
灯りは山寺の墓から拾った、使い古しのロウソクとマッチで明かりを灯し・・・
冬は囲炉裏を囲って・・・
寒い夜は布団の中で身を寄せ合って眠るのじゃ・・・・
ほじゃけどのう・・・
町の者に比べれば、不便で貧相な暮らしをしておりるが・・・
誰ひとり・・・
愚痴をこぼす者はおらんじゃろう・・・・
のう・・・八兵衛や・・・
八兵衛
「う・・・うううぅぅ～～・・・！
そ・・・村長ぉぉお～～～・・・
お・・・おいどんは・・・・
グッシッ・・・・！
こ・・・・この村が・・・・
うううぅぅ～～・・・ヒックッ・・・
で・・・でぇ～好きじゃあ～～・・・！！
うううぅぅぅ～～～ぅぅううう！！」
「八兵衛は泣いておるが・・・
権左衛門もそうじゃろう・・・」
権左衛門
「せ・・・拙者は・・・・
泣いたりなんか・・・・
しないでござる・・・・！
この・・・村は・・・
せ・・・拙者の・・・・
大事な古里でござる・・・
村の者は・・・皆・・・
家族と思うとるでござる・・・！」
「権左衛門や・・・・
肩が震えとるぞ・・・・
無理せんでええ・・・・
男だって・・・
泣く時は泣く・・・
なんも恥ずかしい事ではない・・・・
ほうじゃ・・・
お主の言うた通り・・・
わしらはなん家族じゃからのう・・・・」
権左衛門
「せ・・・・拙者は・・・
お・・・男でござる・・・・
武士は人前で・・・
涙を見せる事が許されぬでござる・・・・・・」
熊吾郎
「ありがとう・・・
お主の気持ち・・・・
よぉ～～くわかっておるからのう・・・・・
村の者たちよ・・・
この通りじゃ・・・
生活がどんなに貧困で不便であろうとも・・・・
便利なだけが幸ではない・・・
わしらは家族・・・
誰も独りではないんじゃよ・・・
わしはこの村が好きじゃ・・・
みんなが大好きじゃ・・・・
一緒に生きられる事が本当に素晴らしい・・・
・・・わしは今・・・
・・・とても幸せじゃ・・・
欲しい物など何もないのじゃ・・・
これからも・・・
村人一同仲良く協力し合い・・・
頑張って・・・
生きて行こうな・・・」
八兵衛
「うぁぁぁ～～・・ぁああん・・・！
うぁぁぁぁ～～～・・ぁああん！！！」
「これこれ八兵衛や・・・・
そがいに泣くで無い・・・・」
権左衛門
「しょうがないでござるな・・・
男は泣くなと・・・
いつも強気で威張っておる者がこうじゃからのう・・・
困ったものでござるよ・・・」
熊吾郎
「それでは・・・
村の者たちよ・・・・！！
２０１９年・亥年・・・！！
今年でようやく１８歳を迎える・・・
わしの息子・・・
「熊太郎」は・・・
昨年愛宕の奉納相撲で・・・
横綱だった八兵衛を寄り切りで破り・・・・
見事・新横綱となった熊太郎に・・・
盛大なる土俵入りを披露してもらおうかのうっ！！！
おぉぉぉぉぉーーーぉぉおおいっ！！
熊太郎やぁぁぁーーーーぁぁぁぁぁーーーーーぁぁああいっ！！！」
「おうっ！！親父っ！！
八兵衛兄から譲り受けた、博多の締め込みもしっかり締めたからのうっっ！！
わしの準備はえぇ～ぞぉ～～！！！」
「皆の者ぉぉぉぉおおおおーーーーーーーーーぉぉぉぉぉおおおおおっっ！！
もう一度お手を拝借！！！
一本締めと合わせて御一緒にぃぃいーーーーーーーぃぃいいいいいいいいっっ！！！」
「熊太郎っっ！！！
四股踏み一丁っ！！！
よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ！！！！」
「よぉいしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ！！！」
「嗚呼ぁぁーーーーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ・・・・・
・・・・・どすこぉぉーーーーーーぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっっっ！！！」
「愛宕の山の神様よ・・・
どうか村人一同の無病息災と幸せを心よりお祈り申し上げまつる・・
我が息子である熊太郎・・・
甘えん坊で寝小便たれの泣きベソ小僧だったのが・・・
今ではすっかり大きくなり・・・
こんなにも・・・
強く優しく逞しく・・・
一人前の男として育ちました事・・・.
お天道様と一緒に見守ってくれた・・・
愛宕の山の神様に・・・
誠・感謝申し上げまつる・・・！」
熊吾郎
「おおおおーーーぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーぉぉおおおおいっ！！！
わしの息子・・・！！！
熊太郎やぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーぁぁぁぁぁぁああいっ！！！」
「おうっ！！
親父っ！！わしは腹が減ったぞぉっ！！
一緒に飯食おうやっ！！！」
「終」
２０１９年・亥年
謹賀新年
明けましておめでとうございます
百貫村の熊太郎より
新年のお喜びを申し上げまつる
