ここはアニマルランド
いろんな動物たちが住んでるんだ
今日はとってもいい天気
おひさまポカポカあったかい♪
そよ風ソヨソヨきもちいい♪
1匹のタヌキ「ポン太」がエンピツとクロッキー帳を持って、陽気に歌を唄いながら歩いていました
ポン太にはお父さんとお母さんが居ません
どうして居なくなったのか、それはポン太がまだ赤ちゃんの頃だったのでわかりません
ポン太はチャイルドホームという、親の居ない動物の子どもたちが集まる孤児院施設で生活しているのです
今日は土曜日、学校の授業がお昼までだったポン太は、チャイルドホームに帰りお昼ご飯を食べると、すぐにクロッキー帳とエンピツを持って、お気に入りの場所「ほのぼの湖」へと出掛けて行きました
ポン太
「おひさまニコニコいい天気~♪」
「雲さんフワフワおいしそう~♪」
「ソヨソヨ風さんきもちいい~♪」
「お花がとっても良いにおい~♪」
ポン太は自分が作った歌を嬉しそうに唄っています
ポン太
「えへへ♪ごあいさつおくれちゃった!
みんなこんにちは~♪
ぼくタヌキのポン太、小学1年生なんだ!まだ入学したばっかりなんだよ!おべんきょう大好き!お絵かき大好き!
え~っと…あとね、あとねぇ~…
おにぎりがだーーーーい好きなんだ!
よろしくね!」
楽しく歌いながら歩くポン太、あっという間に湖についちゃった
ポン太
「ほのぼの湖さん、こんにちは~♪ぼく、また遊びにきたよ!今日はね、お絵かきして遊ぶんだ!おやつにドーナッツもあるんだよ!」
ポン太は湖にまであいさつします
とっても優しくて良い子なのです
ポン太
「あのね、今日は、ぼくのお父さんとお母さんの絵を描くんだ!
赤ちゃんだったから、ちっとも覚えてないんだけどね、でも頑張って描くもんね、出来たらほのぼの湖さんにも見せてあげるから楽しみに待っててね!」
ポン太は湖に向かってそう言うと、湖の側に座ってクロッキー帳を開きました
ポン太の持っているオレンジ色のクロッキー帳
これは去年の6才の誕生日、正確にはチャイルドホーム入園日に、院長先生が
お絵かき大好きなポン太にプレゼントしてくれたクロッキー帳
遊びに行くときはいつも一緒
ポン太の夢がたくさんつまった宝物です
ポン太はクロッキー帳に、エンピツで絵を描き始めました
そしてポン太が理想とするお父さんとお母さんを描くのです
ポン太
「え~っとねぇ…、ぼくのお父さんはねぇ~、ぼくよりもっともっと体がおっきくて太っているんだ!お腹なんてこーんな風船みたいにまん丸!
だけど、力持ちでとっても優しいんだ!
それでね、ぼくをかる~く持ち上げて、たかいたかいしてくれたり、かたぐるましてくれるんだ!
えっと…あとね、あとね~、ブランコ押してくれたり、すべり台にもね一緒にすべってくれるんだよ!
それでね、お家に帰ったら一緒にお風呂はいるんだ!
ぼくがお父さんの背中流してあげてね、お風呂につかるとお湯がザバザバァーー!ってあふれちゃうんだ!」
ポン太は楽しそうに話ながら、頭の中に描いている優しいお父さんを描きました
そして次はお母さんです
ポン太
「ぼくのお母さんはね、とってもとってもキレイで優しくていいにおいがするんだ~!
お料理だって何でも作れちゃう!
レストランよりもおいしいんだからね!
たまごがフワフワオムライスに、チーズと目玉焼きがのっかったふっくらハンバーグを作ってもらうんだ~♪
ピクニックには、おっきなお弁当箱に
おにぎりをいっぱい入れてもらって、タコさんウインナーに、卵焼きに、ミートボールに、ポテトサラダに、あとね、ウサギさんのリンゴも入れてもらおっと!
あぁ~あ…さっきお昼食べたばっかりなのに、なんだかぼくお腹すいてきちゃった…
お絵かき終わったら、おやつのドーナッツ食~べよっと♪」
そう言いながらポン太はキレイで優しくお料理上手なお母さんの絵を描きました
そしてポン太の理想としている大好きなお父さんと、お母さんの絵がついに完成しました!
ポン太はおやつのドーナッツを食べながらひとやすみしていると…
学校でいじめっ子のゴリラ「ごり助」と、キツネの「つね吉」がやって来たのです
ごり助
「や~い!や~い!親なしポン太!そんなところで、な~にやってんだよ!」
つね吉
「その手に持っている物はな~にかなぁ~♪ちょっと見せてよぉ~♪」
ポン太
「!!!ご…ごり助…、つ…つね吉…
こ…これはぼくの大事な物なんだい!
絶対に渡せないんだもん!」
ポン太は慌ててクロッキー帳を後ろに隠しました
ごり助
「俺たちにも見せてくれたって、い~じゃんかよぉ~!友だちだろぅ~?」
つね吉
「どうせまたヘタクソな絵を描いてたんだろ~!見せろよ見せろ~♪」
ポン太
「やだいっ!ごり助とつね吉は、前にぼくが大事にしていたヘリコプターのオモチャ壊したもん!
だから絶対渡さないし、見せてあげないもん!」
ポン太は半べそになりながらも、ごり助とつね吉に対して必死に抵抗します
ごり助
「ヘリコプターのオモチャは落としたら勝手に壊れたんだからしょうがねーだろ!親なしポン太のクセに生意気だぞ!
いいからよこせ!」
ごり助はそう言って脅しながらポン太を両手で押さえつけました
ごり助
「つね吉!今のうちだーー!そのノート取れ!」
つね吉
「ほいきた~♪」
ポン太
「やっ…!やめてよ~!」
ごり助は、つね吉にクロッキー帳を取るように命じました、ポン太は必死に手足をバタバタさせますが、力持ちのごり助にはなかいません
ポン太の大事なクロッキー帳は、ごり助とつね吉に奪われてしまうのでした
ポン太
「か、返して~!返してよぉ~!」
ごり助
「や~い!取れるもんなら取ってみな!」
つね吉
「どれどれ♪いったいどんな絵を描いているのかなぁ~♪」
ごり助とつね吉は、ポン太のクロッキー帳を開きました
ごり助
「なんだこれ!?お前のと~ちゃんとか~ちゃんか!?」
つね吉
「はは~ん♪なるほどねぇ~♪」
ポン太
「か…返してよぉ~!見ないでぇ~!」
ごり助
「へ~んなやつ!と~ちゃんとかあちゃんいないクセに!」
つね吉
「ぷぷ…!これがポン太のお父さんお母さんなんですよ♪ごり助さん♪」
ごり助
「がははは!な~んだ!?このデブっちょなと~ちゃんと、へんてこなエプロンつけたか~ちゃん!
これがポン太の親かよ~!
けっさくだぜぇ~!」
つね吉
「さて、この絵に描いてあるお父さんとお母さん、いったいどちらにおられるのかなぁ~?ポン太く~ん?」
ポン太
「う…ウソじゃないもん!ほ…本当に…
本当にぼくのお父さんとお母さんなんだもん!
ぼくにだって…強くて頼もしいお父さんに、優しくてお料理上手なお母さんがいるんだもん!」
ごり助
「あ~!ポン太がウソついたウソついた~!いっけないんだ~!先生に言ってやろ言ってやろ~っと!」
つね吉
「あ~あ…いけませんねぇ~…
ポン太くん♪ウソをつくと、エンマ様にベロを引っこ抜かれてしまうんですよぉ~?知ってますかぁ~?」
ポン太
「う…う…ウソじゃ…
ないもん…グスン…
エ…エンマ様なんて恐くないもん…!
あんなのウソっぱちだもん…!」
ポン太は目に涙をいっぱいためながら、ごり助とつね吉にそう言いました
ごり助
「ポン太は大ウソつき大ウソつき~♪
地獄でエンマ様にベロ抜かれる~♪」
つね吉
「ポン太くん、かわいそうに…
ベロを抜かれると、話が出来なくなるんですよぉ~?知ってますかぁ~?」
ポン太
「ぼく、ウソつきじゃないもん!
クロッキー帳返せ!」
ポン太はごり助が持っているクロッキー帳を掴みました
ごり助
「な…!な~にすんだコイツ!やめろ!」
ポン太
「ぼくのクロッキー帳返せ~!」
と、その時…
「ビリビリ……!!!」
ポン太が描いた、お父さんとお母さんの絵のページが外れてしまいました
ポン太
「あぁ!…あぁ~…あぁ~…ぁああっ!」
つね吉
「あ~あ、とれちゃった♪」
ごり助
「お…おれ悪くねぇ~ぞ!ポン太が引っ張るから外れたんだからな!」
ポン太
「ひ…ひどいよぉ…ぼく…ぼく…
許さない~!」
ポン太は怒りながら、ごり助に拳を振り上げながら突っ掛かっていきました
ごり助
「いてっ!やってくれたなぁ~!このぅ!」
ポン太はごり助に一発パンチをくらわすものの、ごり助にあっさり張り倒されてしまいました
ごり助
「ふんっ!だいたいポン太がへんてこな絵を描いてウソつくからいけないんだろ!
なんだこんなもん!」
ごり助はそう言ってポン太が描いたお父さんとお母さんの絵を湖に投げてしまいました
ポン太
「あーん!ぼくの絵が!取って!ちゃんと取ってきてよぉ!」
つね吉
「あ~あ♪ありゃもう取れないね♪」
ごり助
「へんっ!ざまぁみろっ!」
ポン太は湖の水を必死でパシャパシャさせますが、絵はどんどん沖へと離されてしまいます
ポン太
「わぁぁ~~ぁぁ~~ぁああんっ!
一生懸命描いたのにぃ~!
せっかく上手に描けたのにぃ~!
わぁぁ~ん…ぅぁんうあんあんあん!
あぁ~ん!あんあんわんわん…!!!」
ポン太はとうとう大きな声で泣き出してしまいました…
するとその時…湖に浮かんでいるポン太の絵がピカッ…!と光りだし、そしてすぐに消えてしまったのです
ポン太、ごり助、つね吉の3匹は、いったい何事かと思いながら「キョトン」とした顔で湖の方を見ていると…
…後ろから誰かの姿が湖の水面に写りました
それに気づいた3匹が後ろを振り返ると…
「ポン太、待たせたなぁ~、お父さんだぞ!」
「ポンちゃん、お弁当たくさん作ってきたわよ!お母さんたちと一緒に食べましょう♪」
3匹の後ろにいたのは、ポン太がクロッキー帳に描いたお父さんとお母さんの姿だったのです
ポン太
「わぁ~!お父さんとお母さんだぁ!本当に来てくれたんだ!」
ごり助
「わ!わわわわ…どうなってんだよこれ…!」
つね吉
「ごり助さん…こ…こ…これは…まずいですよ!きっと宇宙人にちがいありません…!」
ごり助
「あわわわわ…う…う…宇宙人…!お…おっかねぇよ…!
逃げろぉーーーー!!!!」
つね吉
「まままま…待ってくださいよ!ごり助さぁ~ん!!
ボクをおいていかないでぇ~!!ママァ~ン!!」
ごり助とつね吉は一目散に、その場から逃げてしまいました
ポン太
「へへ~んだ!ベロベロばぁ~!
ざまぁみろっ!
えへへ♪
お父さん、お母さん、本当にいたんだぁ~!
今までどこにいってたの!?
ぼく、独りぼっちでさみしかったんだからね!」
お父さん
「ポン太、大きくなったなぁ!ほら!」
たかいたか~い♪」
ポン太
「わぁ…!きゃっ!きゃっ!あははは!」
ポン太はお父さんに抱えられて、たかいたかいをしてもらって大はしゃぎ!
手足を広げてよろこんでいます
お母さん
「さぁポンちゃん、お腹すいたでしょう、お弁当たくさん作ったから食べましょうね!
ポンちゃんの大好きなおにぎりや、タコさんウインナーにミートボール、ポテトサラダも入ってるわよ~♪」
ポン太
「わぁ~い!わぁ~い!おにぎり大好き!ぼくお腹すいちゃった!
お母さんが作ってくれたお弁当食べる~♪」
ポン太はお父さんの風船のようなまん丸お腹にもたれ掛かりながら、お母さんが作ってくれたおいしいお弁当を食べます
おひさまポカポカ
フワフワな白い雲
キラキラ光る湖と
そよそよ風に吹かれながら食べるお弁当は百点満点!
ポン太はお父さんとお母さんにいろんなお話をしながら楽しくお弁当を食べました
そして、お腹いっぱいになったポン太は、お父さんと一緒に遊びます
かたぐるまをしてもらって、木の実を取ったり、追いかけっこやお相撲ごっこをしていっぱい遊びました
ポン太は生まれて初めて家族の温もりを感じて幸せいっぱい
このまま時間がとまってくれますようにと、心の底から願いました
…しかし…、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、おひさまはどんどん西へ西へと沈んでいきました…
…すっかり遊び疲れたポン太は、またお父さんのまん丸お腹にもたれ掛かり、お母さんに頭をなでなでれながらウトウト眠くなりました
お父さん
「ポン太、本当にたくましくなったなぁ~!お父さんびっくりしたぞ!」
ポン太
「えへへ…でもお父さんにはお相撲かてないや…
だって、体が太っちょで大きいお相撲さんみたいなんだもん…」
お母さん
「ポンちゃん、すっかり遊び疲れちゃったのね…
いいのよ、お父さんのお腹でゆっくりお眠りなさい…」
ポン太はお父さんのお腹が気持ちよく、お母さんの優しい手でなでられながら眠りにつきました…
ポン太は、これからはずっとお父さんとお母さんが一緒、うれしいなぁ…
そう思いながら
どれほど眠ったことでしょう…
…ポンちゃ~ん…
ポンちゃ~ん!
もう帰る時間よ~…
誰かの声が聞こえてきます
ポンちゃん、探したよ!
もう日が暮れるから、ホームに帰りましょう
ポン太
「う…う~ん…
あれ…?ヒトミおねぇちゃん…?」
そこにはポン太と同じ施設、チャイルドホームに住んでいる6年生のみけ猫「ヒトミおねぇちゃん」でした
ポン太
「ヒトミおねぇちゃん、ぼくね、お父さんとお母さんがね…
…あれ……?
…お父さんとお母さんがいない…!
ヒトミ
「お父さんとお母さん?え~!?誰もいなかったよ~?」
ポン太
「そ…そんなぁ…
お父さーん!お母さーん!
どこーー………!?」
ヒトミ
「ポンちゃん、きっと夢見てたんだね、
ダメでしょ~、こんなところで寝てると風邪ひいちゃうぞ」
ポン太
「ウソじゃないもん…
さっきまでお父さんとお相撲ごっこして、お母さんのお弁当食べてたんだもん…」
ポン太が周りを見渡すと、すっかり辺りは日が暮れて真っ赤な夕焼け空になっていました
ヒトミ
「ポンちゃん、ホーム帰ろ、冷えるし暗くなっちゃうよ」
ポン太
「う…うん…
おかしなぁ…本当に夢だったのかなぁ…」
ポン太は残念そうに呟きながら、ヒトミおねぇちゃんと手をつないで帰ろうとした時でした
ヒトミ
「あっ!ポンちゃん!大事なクロッキー帳とエンピツ忘れてるよ!」
ポン太
「あ!忘れてた!」
ポン太はハッ!として、ヒトミおねぇちゃんの手を離し慌ててクロッキー帳とエンピツを取りに行きました
…すると…
クロッキー帳とエンピツの側には
お父さんにかたぐるまをしてもらって採った木の実が転がっていました
ポン太はクロッキー帳とエンピツ、それに木の実を拾ってヒトミおねぇちゃんのところへ戻りました
ポン太
「はい!ヒトミおねぇちゃん、これ持っててくれる?」
ポン太は木の実をヒトミおねぇちゃんに渡しました
ヒトミ
「あれ?ポンちゃん、木の実どうやって採ったの?」
ポン太
「ふふふ♪な~いしょ♪」
ヒトミ
「あ~!ポンちゃんずるいぞぉ~!
おねぇちゃんには何でも話す約束してるでしょ~!」
ポン太は、またヒトミおねぇちゃんと手をつなぎました
そして、真っ赤な夕焼け空を見ながら、「あれは夢なんがじゃない、きっとこのクロッキー帳と湖になにかしらの関係があるんだろう」と悟り、それ以上の事はヒトミおねぇちゃんには話しませんでした
ポン太がクロッキー帳に描く絵と、ほのぼの湖
いったいどんな謎が隠されているのでしょう…
そして、ポン太が描いたお父さんとお母さんはどこに消えてしまったのか…
その謎はまだポン太にはわかりませんでした
アニマルランドに沈む真っ赤な夕焼け空と2匹だけの長い長い影、ゆっくりゆっくり日暮れとともに消えていきました…
「終」