どすこい!西郷虎之助の七転八倒!

「西郷虎之助の人生は七転び八起き」の筆者・西郷虎之助でございます、この度Yahoo!ブログからようやく移行致しました、初めての方も、これまでお馴染みだった方も含め、新境地でお楽しみ頂けたら幸いです、どうぞこれからも意地っぱりで泣きベソ坊主な「虎之助」をどうぞ宜しくお願い致します。

少年の初恋相手は住職さん2

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作務衣姿の龍玄さんが、大きなお鍋を抱えて居間に入ってきた
作務衣は真っ黒で光沢のかかった綺麗な色をしている、商店街の衣料品店に売ってるのとは全然質が違い、寺院で扱ってる高級な作務衣らしい、和顔でぼってりとした体格の龍玄さんにはそれがよく似合っていて、まるで明治時代の商人さんのように見えるのだった…
「お鍋が熱いからな、さわったらいかんぞ、火傷したら大変だ」

そう言いながらゆっくりと腰をおろしてお鍋を慎重に下ろしテーブルに置く
作務衣のズボンがピッチリしていて今にもお尻の部分が破れそうだ

「虎坊、これは婆やが漬けた梅干しだ、粥に入れるとうまいぞ」

瓶に入った梅干をテーブルに出すと、僕の正面側にドテッ!と腰を下ろした
、お玉で鍋の粥をすくい、お茶碗に入れたのを僕に差し出すと、二人で手を合わせ「じゃあ一緒に言うぞ、いただきます」
…しかし龍玄さんはまだボソボソ…と食事作法を唱えているようだ

僕は梅干しを粥に入れると、粥をすするように食べた

食事作法を終えた龍玄さんは、僕の顔を確認するかのように見つめ、「うまいか?」と言った

粥をズルズルすすりながら「うん…」と目を合わせて応えると

「そうか、そうか」と軽く頷きながら龍玄さんも粥を食べ始めた
居間は二人の粥をすする音と時計の針の音だけの静かな空間になり、少し気まずくしていると、龍玄さんが口を開く

「虎坊も大きくなったなぁ、もう中学生かぁ…」
「まだオシメが取れる頃かなと思えば…、月日が経つのは早いもんだのぅ」
僕は粥をすするのを止めて
「龍さん、僕がオシメしてた頃から知ってるの!?」
と驚くと
「母ちゃんのお腹におった頃から知っとるわい、虎坊はの、わしが抱っこするとよう泣くんで参ったよ、お寺に来たらビービービービー、抱っこしてさらにビービービービー、もう大変じゃったわい!ぐわっはっはっはっは!」
と大きく口をあけて笑う

僕は苦笑いしながら
「ははは…僕、龍さんが怖い人だと思ったんだ、どこかに連れていかれそうな気がして、お寺も薄暗くて今でも怖いよ、龍さんは一人で怖くないの?」
と弱気に答えると

「怖い~?ここには何も出やせんぞ、お不動様も守ってくださってるんだ、そんな弱虫だと、おなごに笑われるぞ!」
と言って粥を再びすすり、お茶碗を早くも空にする、そして更におかわりをよそぎながらニヤニヤ笑い
「わしが怖い~お寺が怖い~と言いながら、最近やたらわしになついとるのぅ、」

ブフッ!…思わず粥を吹きそうになった

「どうした?親父に叱られたんか?それともケン坊とケンカしたか?学校でまた嫌な事があったんか?」

僕は粥のおかわりをよそぎながら
「ケン坊とは昨日遊んだし、父さんは仕事で忙しいからあまり話してない、学校だって今は大丈夫だよ。」

龍玄さんは、気まずそうにしている僕を見て

「まぁええよ、困った事があればいつでも来い、何でも話聞いてやるし、相談にものってやるけぇの、」
「あん時は辛かっただろ?もう大丈夫なんか?」

僕はゆっくり顔を上げて龍玄さんの顔を見た
さっきのニヤニヤ笑った顔じゃなくて真剣な表情をしていた
僕はお茶碗を置いて
「龍さんはあの事どう思った…?
と呟くと
「何ともないわい、人間誰しも失敗はある、堂々としてろ!
それを笑う奴等なんて気にすな!」

こんな事を言ってくれるのはこの人だけだ、龍玄さんが僕の父さんだったら良いのに…
僕は心の中で強くそう感じてしまうのだ

…そしてあれだけ沢山あった粥も空になった、龍玄さんは5杯はおかわりしただろう、どうりでお腹が出ているわけだ

「ごちそうさまでした」と二人で手を合わせた後もまた、龍玄さんはボソボソ…と食事作法、食後のことばを唱えると
「虎坊よ、今日はわしと一緒に深山の里山へ上がらんか、わしの畑があるんよ、野菜を採りにいかんとな、力持ちが居てくれると助かるんよ、わしのとっておきの場所も教えてやる、今日は天気も良いし景色も綺麗やろ、おいでや」
と誘ってくれた

僕は嬉しくて
「えっ!?本当に!?一緒に行っていいの!?深山の里山ってまだ行ったことないんだ!早速お鍋洗ってくるね!」
そんな僕を見た龍玄さんはホッとした表情を見せ
「ちょっと準備してくるから鍋洗い頼むな、終わったら本堂の前で待っとってくれ、長靴は倉庫にあるからな」
そう言い立ち上がると
「ぶぅぅぅぅぅう~~…!」
と大きな屁をかましてきた

「ぐわっはっはっはっは!ケツが笑っとるわい」
そう笑いながらのしのしと廊下を堂々と歩いていく、陽気だけど頼れるこのお坊さんが少年にとって憧れの男だったのでした。