季節は5月
深山の杉木は深緑で青々とした美しい姿を見せている
、すっかり日差しも強くなり太陽の光がさらに山々の木々や植物たちを生き生きとさせていた
そんな颯爽とした山中に、男2人の歩く姿が見えている…
虎之助は龍玄さんの後ろに付いていくように歩いていた
龍玄さんは作務衣の裾をまくり上げ、お腹のまん中でギュッと結んでいて、背中には小さなリュックを背負っている、マムシが出るといけないからと僕と龍玄さんは長靴を履いて獣道のような細い急な登り坂を「よいしょ!こらしょ!」と言いながら山の上にある龍玄さんの畑を目指し歩いていた
上着の裾を上げているおかげで作務衣のズボン越しから龍玄さんの大きなお尻がよく見える、歩く度に左右に動くその立派なお尻を眺めながら虎之助はいろんな事を想像していた
まんまるとでっかくて形の良いお尻、相撲の稽古で男の尻は見慣れている虎之助だったが、会長さんの加齢臭漂うたるんだ締まりのないお尻、先輩の汗臭い皮膚の肉割れだらけで所々ブツブツがあるふてぶてしいお尻、ケン坊の青臭くて脂肪が多く、白くてもっちりしたやわらかいお尻、どれを見てもさっぱり魅力を感じなかった
龍玄さんのお尻は皆とは別格で、程よい恰幅の広さに筋肉がしっかりついているのがよく分かる、ズボンを穿くとお尻はボコッと盛り上がっていて、思わず視線がそちらに向いて触りたくなる、お線香の上品な香りに包まれて、恵比寿様のような男らしい顔立ちの龍玄さんに、思春期を迎えた虎之助には眩しく映り好意を抱くようになったのだ
いけない事とはわかっていたものの、自身から溢れだす欲望を抑えることは出来なかった
龍玄さんのお尻、すごく男らしくてカッコいい
撫で撫で触ってみたくてしょうがない…
立派なお尻だからこそ、あんな大きなオナラが出るのかなぁ…
匂いを嗅ぐとどんな香りがするだろう?
やっぱりお尻は臭いのかな?
でも龍玄さんのお尻だったら僕は匂いを嗅いでも平気
…肛門まで見たい…匂いを嗅ぎたい
…いや、むしろ舐めてみたい…
そんなこんなとぼんやり助平な妄想を描いていると
「虎坊、大丈夫か?しんどくないか?
疲れたら休憩するけん言っておくれや」
と、龍玄さんが後ろを振り向き僕に優しく言った
額には冷やした缶ジュースのように汗粒が光っている
僕は一瞬「はっ」となり
「まだまだ平気だよ、相撲の稽古に比べたら山登りの方がすごく楽しいよ」と答えた
すると龍玄さんは嬉しそうに笑いながら
「がはは、そうかそうか!さすが若いけん元気じゃのう!
じゃがわしもまだまだ疲れてなんかおらんぞ、足元には気をつけてな、しっかり付いていくるんじゃぞ」
と言ってまた前を向き歩き始めた
山から吹き下ろす風がひんやりしていて緑の香りを漂わす
近くではウグイスの鳴く声が山々に響き渡る
のどかで気持ちが良い
だいぶ山の上まで登りきり、町内の民家が米粒のように小さく見えだした頃だった、龍玄さんはまた後ろを振り向き突然
「虎坊や…この先にな、わしの秘密の場所があるんよ、見せてあげるからおいで」
そう言って脇の細道へと入って行った
僕は、秘密の場所って何だろう?と興味津々に龍玄さんの後を付いていった
脇の細道へ登っていくと、ザザザ~…だんだん川の流れる音が聴こえ近づいてくる、そしてその周辺一帯の空気はさらに冷たくヒンヤリしてきた
僕は思わず身震いをする
さらに奥へ奥へと進んでいくと
「ドドドドドーー…」と水が強く落ちる音が聴こえてきた
「虎坊…着いたぞ、ここはわしが修行の場としている不動の滝じゃ」
龍玄さんと僕がたどり着いた先は、落差十メートル程ある立派な滝だった
深山にこんな立派な滝があるなんて今まで聞いた事もない、おそらく町内の誰も知らないだろう…
滝には木で作られた不動明王にコンガラ童子とセイタカ童子を従えるように奉ってある、滝場の手前にはお線香を立てる壺に、ロウソクを立てる栫もあった
その滝の神秘的な姿に僕は圧倒され、奉られた明王様の力強い形相に恐怖を感じた
「この仏像様は龍玄さんが奉ったの?」
僕は驚きながら龍玄さんに聞くと
「お不動様に導かれたんよ、昔この村に来てすぐの頃にな、夕食前に先代の師匠から、今から野菜を取ってきてくれと頼まれたんじゃが、すでに太陽が山谷間に沈み始めるている夕刻時、
暗くなると道がわからなくなってしまうんでな、わしは焦りを感じながら急いで深山の山道を登っていた、すると脇の細道から何やら声が聞こえる…
大勢の落武者達が苦しみ悶える声が奥の方からはっきり聞こえてきたんじゃよ、日は暮れ始め暗くなってきたが、落武者達は助けてほしいと訴えているように感じたので恐怖ながらに細道を奥へ奥へと入っていくと、そこには大きくて立派な滝がわしの目の前に姿を表したんよ、滝に着いた時にはもう落武者達の声は聞こえなくなっていたが、心のなかで「のうまくさんまんだ、まかろしゃだそわたや、うんたらたかんまん」お不動様の御真言が自然と伝わり、わしはとにかく怖かったがお不動様の御真言を七反唱えたんよ、それで慌ててお寺に戻り、師匠にそのことを伝えるとな」
「お不動のお滝に導かれたんやねぇ、龍玄よ…深山の里山には大昔、お城があったんよ…わしがまだ幼き頃に爺やからよく聞かされた覚えがある、お城は戦で落城、多くの落武者達が里山で無惨に命を落としたんだと…
龍玄…お滝に不動明王様を奉り、滝に打たれながら御真言を唱え、落武者達を供養しておやりなさい」
師匠にそう言われ、まだ若かったわしは半信半疑じゃったが、お滝に木製の不動明王様に、コンガラ童子とセイタカ童子を奉ったんじゃ、それ以来からこの不動の滝で供養と共に滝に打たれて修行をしとるんよ
僕はこの深山の里山にこんな昔話と歴史があったなんて全然知らなかった、それよりもまだ子供だったせいか、この里山周辺には落武者達の霊が今も成仏出来ずにさまよっていると聞いて背筋が凍りつく程怖くなった
これからわしが滝に打たれながら御真言とお経を唱える、虎坊も一緒に手を合わせてやってくれるか?
龍玄さんはそう言うと、リュックを下ろして作務衣を脱ぎ始めた
「えーっ!今からこんな冷たい滝に入るの!?この辺りは温度が低くて吐く息はまだ白いし風邪ひくよ!」
僕は肩を震わしながら龍玄さんにやめた方がいいと訴えるように言った
龍玄さんは褌一枚だけの姿になり、太い腕を胸元で組みながら、「こんぐらいの寒さなんぞたいしたことないわい!大雪の日は全身麻痺で体が動かんなった事がある、虎坊は手を合わせながらしっかり見ておけな、わしの行姿を見せてやる!ぐわっはっはっは!」
といつものように威張ったように笑いだした、その堂々とした姿は男らしくてカッコ良かった
僕は褌一枚になった龍玄さんの立派な体格に心臓の鼓動は高くなる、同時に滝場の津々とした冷たい空気と落武者達の霊に恐怖も感じながら龍玄さんの言われた通り静かに手を合わせ始めた…
滝場周辺は木々が高く生い茂り、暗くて空気が冷たい、さらに恐い形相のお不動様にドドドドドーーっ!と、強い落水の音が体全身に響き渡る雄大な滝に全く怯まず勇敢に立ち向かっていく龍玄さんの背中を見て、大人になったら龍玄さんみたいになりたいと、強い憧れを胸に抱くようになった
続